「闇が…濃い」

学園の屋上で、1人佇む理香子は、

地上を見下ろしながら、呟くように言った。


「闇が、濃い?」

後ろから、リオが近付いてくると、理香子の横で立ち止まった。

「そうかしら?あたしには、わからないけど」

リオも真下を見下ろしたが、いつもと違いはわからなかった。

ちらりと、横目で理香子を見たが、

虚ろな目で下を見るだけで、口はつむんでいた。


こうなったら、何も話さないことを、リオはわかっていた。

軽く肩を上げると、再び視線を下に戻した。



しばらく無言の時を過ごした後、リオは乙女ケースを取り出した。

何カラットあるのかわからない…ダイヤモンドの輝きをたたえた眼鏡ケースを、じっと見つめた。


そして、握り締めた。


「あなたが、あたしを月影に…それも、乙女ダイヤモンドに選んでくれたことは、感謝するわ」


リオの脳裏に、

異世界から来た理香子が、乙女ケースを差しだす姿が浮かんだ。

傷だらけになりながら、理香子は悲痛な願いを告げた。



「あなたは…忘れているけど…あたしは、覚えている」

リオはぎゅっと乙女ケースを握り締め、

「九鬼真弓を殺してくれと、言った!あなたの言葉を!」

目を見開いた。

少し血走った眼が、闇を睨み付けた。


そんなリオの様子にも、理香子は表情を変えることがない。

ただ闇を見つめるだけだ。




その時、

いきなり屋上の扉が開いた。


「リオ様…」

屋上に飛び込んできたのは、黒のマスクを被った男だった。


リオは振り返り、

「何事だ!」

男を睨んだ。


「ご、ご…報告が」

男は足がもつれたのか、すぐに転んだ。

うつ伏せに倒れた男を、訝しげに見ていたリオは、

男がすぐに起き上がらないことに、イラッと来た。

「チッ」

軽く舌打ちすると、リオは男に向かって歩き出した。

「何の報告だ」

防衛軍の士官専用の制服を改造した白い服を着たリオは、腕を組みながら、

男の前で止まった。