「魔獣因子…じゃない!この子は…」

女子生徒と距離を取った九鬼は、唇を噛み締めた。

「闇に、とりつかれている」

この世界の人間に、魔獣因子を持つ者はいない。

だが、時にして、魔に操られたり、憑依される時がある。


人は、それを魔法によって、除去してきた。



「ねぇ…どうして、あたしの頑張りを、誰も評価しないの?」



「ク!」

九鬼は顔をしかめたまま、乙女ケースを突きだした。

「ねぇ…あたしに、価値はないの?」

女子生徒の悲痛な声を切り裂くように、九鬼は叫んだ。

「装…!?」

しかし、叫び終わる前に、九鬼は突きだした腕を下げた。

突然、前のめりに女子生徒が倒れたからだ。


九鬼ははっとして、女子生徒にかけ寄った。


跪き、慌てて抱き上げた時には、


女子生徒は絶命していた。

「!」

唖然となった九鬼の手の中で、

女子生徒はすぐに灰と化した。


「な!?」

言葉にならない九鬼は、ただの灰と化した女子生徒の体を握り締めた。


「な、何が起きているの?」

状況が理解できない。

確かに、女子生徒は闇と同化していたはずだ。

それなのに、

彼女はすぐに死んだ。


「一体…」

九鬼が悩み、考えを巡らしている時に、


どこからかギターの音が、耳に飛び込んできた。


その音は、九鬼の思考を遮った。


人間の思考をすべて止め、おのが音だけに耳を傾けさせるような激しい情熱に、

思わず九鬼の手の中から、女子生徒だった灰がこぼれ落ちた。

九鬼は立ち上がると、

その音に導かれるように、歩き出した。


最初はゆっくりと、


進む度に速くなり、

最後は全力で走っていた。


九鬼はまだ知らない。


月影同士は引き合い、


そして、出会った時、

運命は…決まってしまっていることに。