「クッ」

バランスを崩し、よろけた輪廻は片膝を床につけた。冷たい木の感触が、素肌を通して感じられた。


そんな輪廻を見下ろしながら、嘆くようにシュナイザーは頭を押さえ、

「日本女性も、地に落ちたものだ…。人の話を最後まで聞く前に、攻撃してくるとは」

「何だ…?」

輪廻は立ち上がりながら、後ろを見た。 

体育館の扉の前に、2メートル以上ある男が立っていた。

輪廻は目を見張った。なぜなら、その男から…生気が感じられなかったからだ。

輪廻と男とは、少なく見ても、十メートルは離れている。

なのに、明らかにさっきの攻撃は、あの男からだった。


「あ、あれか…」

シュナイザーは、輪廻の視線の先を追い、

「単なる…人造人間だよ」

にやりと笑った。

「人造人間…?」

輪廻は立ち上がった。

「我々より弱い人間は、夢を見る…。人より、早く走りたい!空を飛びたい!力がほしい!」

シュナイザーは大袈裟に天を仰いだ。

その時、人造人間の体から、妙なモーターの稼働音が、体育館に響いた。

「我々は、それを叶えてやっただけだ」

床を滑るように、人造人間が輪廻に突進してくる。

少し足が浮いている。ホバークラフトの原理だ。

「速い!」

受けとめようとしたが、耐えられる衝撃ではないはずだ。

輪廻が、右へ動こうとしただけで、そちらに方向を向ける。

「無駄だ!こいつは、人間の筋肉の動きを読む!」

「チッ」

輪廻は舌打ちした。

「女神と言えども!人の血肉を纏ってるからには!人のことわりから、逃れられぬわ」

シュナイザーが嬉しそうに、叫ぶ。


あっという間に、人造人間は、何もできない輪廻の前まで来る。 

「とらえろ!」

シュナイザーが絶叫した。

二本の丸太のような腕が、輪廻の体を掴もうとした瞬間、

輪廻は、前にダッシュした。

懐に入り込むと、人造人間の胸を蹴り、後方にジャンプした。

しなやかに、全身が反り返り、人造人間の突進力も利用して、シュナイザーの後ろに回り込もうとした。