サラの悲痛な叫びに、空牙は足を止めた。

「雷様!」

サラは顔を上げ、空牙の背中に向けて、叫ぶように言った。

「魔王の真の目的は、もう一人の女でございます!」


「もう一人の女?」

空牙は顔だけを、サラに向けた。

その瞬間、サラはまた頭を下げ、言い放った。

「天道輪廻…。彼女こそが、真の目的です」


空牙は完全に、体をサラに向けた。

「どういう意味だ?」

「詳しくは言えませぬ…」

「どうしてだ?」

空牙の口調が、変わってくる。明らかに、苛立っていた。

サラは、話せることだけを選び、要点をまとめた。

「もし…あなた様が真実を知っても…あなた様が選ぶ結果は、一つです」

サラは、少し泣いていた。

「ならば…知らぬ方が、あなた様の心は、傷つかない」



「もうよいわ!」

空牙はサラを残し、屋上を後にした。

「雷様!」

サラの声も無視して。



(今更…何を恐れるか…)

空牙は、ただ歩き続けた。

梓のところへ向けて。 

そして、輪廻が危ないことを、まだ空牙は知らなかった。

相手が対象を、勘違いしていることも。