「動けん…」

ドラキュラは絶句した。顔に食い込んだ指先から、力が吸い取られていくのが、わかったからだ。

空牙は軽く笑うと、ドラキュラに言った。

「俺の牙を見せてやろう」

「な…」

ドラキュラは言葉を発することが、できなかった。

夜を迎えた空が輝いたと思った刹那、落ちてきた光が、ドラキュラを貫いた。

それは、雷(かみなり)だった。

雷雲もないのに、落ちてきた雷は、一瞬でドラキュラを灰にした。

「不死といっても…すべての細胞が、燃え尽きたら…再生できまいて」

空牙は、指先に残った灰を風に乗せると、手摺りから離れた。

そして、吸い取った魔力を確認すると、

「まあまあか……。神を名乗る割りには、少ないがな…」

欠伸が出た。

「雷様…」

いきなり、後ろから声をかけられて、空牙は少し驚きながら、振り返った。

「どうして…お前がここにいる?」

空牙の後ろに、跪く一人の女。

しかし、その女は人間ではなかった。

赤毛に、二本の角を頭に生やしていた。

「は!……私は、あなた様につくられた魔物でありますれば……どうしても、伝えなければならないことが、ございました故に…」

床につくほど、頭を下げた魔物を見て、空牙は目を細めた。

「サラよ…」

空牙の口調は、どこか…冷たい。

「たかが小娘一人を連れて帰るぐらいで、何があるのだ?お前が来たとなれば、我は城の笑いものになるわ」

空牙は、跪いているサラの横を通り過ぎていく。

「信用できないのならば、今から捕まえてこよう」

空牙の両目が、赤く光った。

「お待ちください!」

サラは、声を荒げると、跪いたまま、体を空牙の前に向けた。

「その女では、ございません」