廊下を右に曲がった瞬間、空牙は軽く笑った。

いきなり、真っ黒になり…暗黒の空間に迷い込んだのだ。

広さの限界を感じさせない亜空間が、空牙を包んでいた。暗闇が、肌に染み付き…染み込んでくるような感触が、汗のようにまとわりついてくる。

「フッ…」

空牙の不敵な笑いが、ここの主には不満だった。

闇の中から、闇に降り立つ者。

「普通の人間ならば…気がおかしくなるような…完全な闇…。その中で、笑うとは…」

闇に降り立った影は、さらに質量を持ち、人へと姿を変えた。中年の紳士へと。

突き出た顎に、天高く上がった鼻…鼻腔は窪み、鋭い瞳が、赤く輝いていた。

「我々と同じ姿をしていながら…完璧とは程遠い人間?しかし…」

タキシードを身に纏った男は、手を突き出した。

すると、空間そのもの…闇そのものが、空牙の全身に絡み付き、動きを封じた。

空気が生きているように、空牙の顎を無理矢理上げた。

空牙の顔が、露になる。

「人間ではないな…。しかし、顔立ちは…東洋人に近い…。野蛮で、劣等種族に、似た…神などいない」

男は身を反り返し、空牙をさらに押さえつけると、見下ろしながら、両手を広げた。瞳の色は、ブルーに戻る。

「白い肌…青き瞳!そして、美しいブロンドの髪!これこそが、人の姿…いや、神の姿なのだよ」

男は足の爪先を、空牙の首許に入れると、

「貴様には…魔力はあるようだが…醜い…醜い…醜く過ぎるわ」

男の爪先が光ると、空牙の体が吹き飛び…粉々になった。

「我々に似た…醜い生物は、みんな死ねばいいのだ…。血だけ残して…」

男は笑い、

「今の男も…飲んだらよかったかな?」

首を横に振り、

「いやいや…。どうも、あの肌を見ると、吸う気が失せるわ」

と言うと、ククククと笑いだし……やがて、大笑いになったとき……、



口を大きく開いた形で、男の動きが止まった。

「な…」

闇が、絡みついていたのだ。