あの舞台の脚本は、

里緒菜が書いた。

秘めた思いとともに…。

そして、

その思いは叶うことなく、終わり、

架空の物語の中だけで、

里緒菜の心から離れ、続いていく。

もう…里緒菜自身とは関係なかった。

考え込む里緒菜を、和也はただ見つめていた。

その時…

屋上の扉が開いた。

里緒菜たちの空間に、入ってきたのは、黒い大きな瞳が印象的な一人の少女。

少女は、ちらっと香里奈たちを見ると、距離を取りながら、歩いていく。

途中で、フェンスにもたれている里緒菜の姿を認め、微笑んだ。

そして、

里緒菜と反対側のフェンスのもたれ、静かに、本を読み出した。



「あの女…」

里緒菜の呟きを、和也は聞き逃さなかった。

「知り合いか?」

「知らないわ」

里緒菜は、じっと少女を見つめた。

風になびく黒髪。少女は、本に没頭してるのか…

里緒菜たちを、見ようともしなかった。