会場は一体になり、

大歓声がわく中、

香里奈の喉の調子が、おかしくなってきた。

もう七曲目だ。

久々に使う喉。

大観衆のため、声を張り上げていた。

咳払いしても、なおらない。

そんな香里奈の肩にそっと、

明日香は、手を置いた。

振り返った香里奈に、明日香は微笑み、

トランペットを下げると、

スタッフが、ステージにマイクスタンドを持ってくる。

明日香は、マイクに向かって、静かに…言葉を語り出す。

透き通った歌声、

真っ直ぐな歌声。


香里奈は横で、歌う母親の姿を見つめ、

ただ聴き惚れていた。




間奏になると、

明日香は、トランペットを吹く。

淡く、

力強く。

繊細な歌声と、力強いトランペットの音色。

その対比が、

明日香というミュージシャンの持ち味だった。

格好いい。

香里奈は心の中で、明日香に叫んでいた。

そして、

心がうずいてくる。

香里奈は、マイクを握りしめ、

トランペットを外し、また歌い出す明日香に合わせて、

香里奈も歌い出す。

二人の声が絡み合い、

夕焼けの空を、駆け抜けていった。