~過去の記憶~
ガラガラガラ…
“来たわよ、サイテー女”
“あんなことしといて、よく学校来れるわね”
“そーだよな!”
“木立さん、かわいそう”
「みんな、もういいわよ。光も反省してるみたいだし?」
反省って…私、何もしてないじゃない。私のことを唯一名前で呼ぶのは、私へのいじめのリーダーの、木立 詠(きだち うた)。
いつも通り、気にしないで自分の席に向かう。スクールバックをおろして教科書を机に入れた。
「っ! きゃあぁぁ!!」
「なによ、うるさいわね・・・・キャアア!! なによそれ! ゴキブリ!?」
…ゴ、ゴキブリ!?
「アンタ、毎日毎日みんなが嫌がることして、何がしたいの!?」
やったのはあなた達でしょ!?
「光。反省してるんでしょう? みんなのために、それ、捨ててきてよ。」
「え…でも、なにで…」
「手づかみに決まってるじゃない!」
「アンタ、そんなのもわかんないの?」
「でも、それじゃ、手が…」
「あたしたちには関係ないわ。」
「おい! 早くしろよ!」
じゃああなた達がやりなさいよ!!
「もしかして、逆らうき?」
「「「手づかみ! 手づかみ! 手づかみ!」」」
みんなから、手づかみコールが鳴り止まない。
私は、嫌で嫌でしょうがない気持ちを押し殺し、手を動かした。
1匹、また1匹と私が外に捨てるたびに、周りからの悪口は、増える一方だった。

こんないじめが始まったのは、2年の春だった。
いじめが始まる前までは、私にも、友達と呼べる人がいた。
野神 光夜(のがみ こうや)。私に、初めてまともに話しかけてくれた人だった。
私はそれからずっと光夜と過ごすようになった。
光夜と過ごす毎日は、すごく楽しかった。行きたくなかった学校にも、行きたいと思うようになっていった。
それと同時に、私の光夜への恋心も大きくなっていった。
2年になりたての頃、私は、いちだい決心をして、光夜に告白したんだ。でも、失敗だった。
そのあとから私へのいじめが始まったんだ。

「じゃあ、これで授業は終わります。」
あれ、もうお昼か… 私の一番嫌いな時間。
「光。お弁当は?」
「あ、あるよ。」
「出して。早く。」
「え、何するの?」
またお昼抜き…?
「いいから、早くお弁当出して。ね?」
「うん…」
カタ…
「今日も、みんなが嫌がることしたから、お昼抜きね。」
「っ!! やっ…めて!!」
せっかく施設長さんが早起きして作ってくれてるのに!
「なんだよ! アンタ、逆らうきかよ!?」
「あー! わかったー!!」
「なによ佐柄(さがら)、いつもよりも増してハイテンションねー。」
「俺、わかっちゃったんだよ!! きっとこいつ、せっかくお母さんが早起きして作ってるのに~…とか思ってんじゃね!?」
「アハハハ! まさかのマザコンですか!!」
「あれれ~? アンタその顔は、図星~!?」
「え!? マジ!? 俺、ヤバイこと暴露しちゃった系!?」
「いやいや、佐柄、めちゃくちゃナイスだわ。」
佐柄くんとその取り巻きに、違う…私に、お母さんなんか、いない…そう言おうとして、口を開きかけた。
「違う…」
かすかにだが、確かに聞こえた声。その声は、私じゃない。その主がわかった時、私はとっさに顔を上げた。
なぜなら、その声の主は今まさに私をいじめている、詠ちゃんだったから。
…でも、なんで? なんで詠ちゃんが、そんなこと…
考えていると、余計にわかんなくなる。ねえ、なんで? そう聞こうと思って、もう一度顔を上げたら、詠ちゃんからは、思いがけない言葉が降ってきた。
「マザコンとか、マジキモイんですけどぉ~!!」
その瞬間、教室は、笑いに包まれた。
私、何期待なんて持っちゃってんだろう。今の私には、希望なんて、あるわけないのに…