溺愛王子とヒミツな同居2




まりやのことを不安にさせちゃいけないと思う俺の態度が、逆にこいつを不安にさせて心配させていたんだと思うと胸が痛んだ。



「なんか俺達って、ちょっとのことで空回りしてバカみたいだよな」



こうして分かり合ったあとなら、いくらでも笑い話にできるのに。



「相手のことを想ってるから、空回りしちゃうのかな。

どんなに格好悪くても、好きって気持ちがあるから一生懸命になっちゃって」



「そうかもな。俺には、今までもこれからもお前だけだし、お前以外の奴が隣にいるなんて考えられないから。

だからさ、まりやのためになら恋愛バカになってもいい」



冗談めかして言う俺に、まりやは赤くなって「私も」なんて可愛いことを言ってくれる。



そんな可愛いまりやの頭を再び自分の方へと抱き寄せると、まりやが俺に体を預けながら聞き辛そうに聞いてくる。



「どうして……篠原さんは大翔君に抱き着いてたの?」



不安が入り混じるその声に、誤解をとかなきゃいけないいちばんの問題に姿勢を正す。



「米倉からお前が篠原のことを聞いたって教えられて、今日1日まりやの態度がおかしかった理由がわかったんだ。
で、あいつも根がお節介な奴なんだろうな。

米倉からお前が麻生先輩と帰ったって聞かされて、いても立ってもいられなくて探してたんだ。
そしたら、校門で篠原が待ち伏せしてて」



その後、まりやを探しながら公園まで行ったこと、そして自分が無視されたことの腹いせに、まりやが近くにいることを知ってて俺に抱き着いてきたことをまりやに話した。



俺の話を聞いていたまりやは、不安が完全に消えたわけじゃなさそうだったけど、ちゃんとわかってくれた。



「篠原さん、本当に大翔君のことが好きなのかな……」



ぽそっと呟いたまりやの目を真っ直ぐに見つめる。





「あれだけ光に執着してた奴だし、急に心変わりするなんて考えにくい。

もし、本当に俺が好きだったとしても、俺はまりや以外見てないから」



真っ直ぐに伝える俺に、やっぱりまりやは赤くなって、でも嬉しそうに頷く。



「俺が何年お前に片想いしてきたと思ってんの?

まりやへの想いは、そんな簡単に変わるほど軽いもんじゃないから。

お前がおばあちゃんになっても、想っていられる自信あるしな」



額をコツンとつけてクスクス笑う俺に、まりやは耳まで赤くなる。



「お、おばあちゃんって……。そんな歳まで大翔君と一緒にいられるのかな……?」



なんでそこで不安そうな顔するんだよ。



俺がお前を手放すわけないだろ。



「いられるよ。ずっと一緒に」



「そ、それってなんだか……」



「ん? なんだよ」



言いかけて、ひとりまた恥ずかしそうにするまりやにその先を催促する。



「や、やっぱりいいっ」



それから口を噤んでしまったまりやに続きを言わせようと、脇腹をくすぐる。



「ひゃ……!? や、やめ……っ」



「まりやが言うなら、やめてやるけど?」



コショコショとくすぐる俺に、身をよじりながら逃げようともがくまりや。





「くすぐった……っ、やめて……」



時折、笑いながらソファからずり落ちそうになるまりやの体を支える。



くすぐるのをやめると、急に静かになった俺をまりやが不思議そうに見る。



「大翔君……?」



「さっき言ったことは嘘じゃないから」



まりやの目を真っ直ぐ見て、上手く伝えられない気持ちをこの言葉だけに託す。



まりやは恥ずかしがり屋だから、面と向かって言ってはくれないだろうけど、今はそれでもいい。



まりやが俺の隣で笑ってくれていたら。



「私も。私も大翔君がおじいちゃんになってもずっと好きでいられる自信あります」



恥ずかしがり屋のまりやが俺の目を真っ直ぐ見て、言ってはくれないだろうと思っていたことを伝えてくれた。



それだけで嬉しくて、まりやをぎゅっと抱きしめた。






週明けの月曜日。



私が登校してくると、すでに教室にいた栞と宮内君が手を振ってくれる。



「おはよ〜まりやちゃん」



「まりや、おっはよん」



「おはよう。栞、宮内君」



席につくと、すかさず2人が私の席へとやってきて、何か気になるのかジッと見つめてくる。



な、何だろう……。凄く見られてるんだけど。



とりあえず笑ってみると、期待に満ちた目を栞に向けられる。



「松っちゃんと喧嘩した?」



「喧嘩? してないけど」



この間のは喧嘩っていうか、私が勝手に不安になったのが原因だったし。



「まりやちゃんが笑ってくれてて安心した」



宮内君が急にそんなことを言って、私は訳がわからない。



「俺のせいで2人が気まずくなったりしたら、ほんと顔向けできない」



どうしてそんなことを言うのかと首を傾げていると、いつの間に来たのか麻生先輩が我が物顔で大翔君の席に座って深く頷いていた。



「え、なんでセンパイいるんですか」



「いるんですかっていちゃいけないの?

それより、ヒロ君とちゃんと話し合いできたみたいだね?」



私を元気づけてくれた先輩は、何も言ってないのに私を見ただけで大翔君とちゃんと話し合えたことがわかったみたいで、すごい人だなぁと感心。





「麻生先輩もこの間の一件知ってたんでしたっけ」



宮内君がそういうと、何故か自慢げに胸を張る麻生先輩。



「そうなんだよ。あ、キミ達はあの後のこと知らないだろうから、このオレが特別に教えてあげよう。

そりゃもう大変でさ、まりやちゃんとヒロ君がね!

で、何が驚いたってヒロ君の足が速いことにいちばん驚いてさ」



自慢げに話す麻生先輩だけど、聞いてる2人は表情からしてきっと、何言ってるんだこの人って思ってそうな気がする。



「全っ然わかんないんだけど! あんた話を端折りすぎでしょ!!」



「まぁ、これはねヒロ君とまりやちゃんとオレの3人だけの秘密ってことで」



「だったら言うな!!」



栞に突っ込まれて、ははっと笑う先輩。



きっと私が嫌な思いをしないようにって、気を遣ってくれてるのかもしれない。



大翔君はあれから、篠原さんについては何も言わないけど、私には心配しなくていいって言ってくれた。



本当に大丈夫かな。



ダメダメ! すぐに不安になるのは私の悪いところだよ。



大翔君のこと信じなきゃ!





「まりやちゃん、本当に純礼のことごめんね」



栞と麻生先輩がコントのような会話をしている横で、それを楽しく見ていた私に宮内君がこっそりと謝って来た。



「どうして宮内君が謝るの?」



「だって、あいつはオレの元カノだし、まりやちゃんを不安がらせるようなことしたし。

だから……」



また謝ろうとした宮内君に笑い返す。



「宮内君のせいじゃないよ。

確かに大翔君に告白したって聞いた時はショックだったけど、でもそれは宮内君のせいじゃない。

それに直接的に何かをされたわけじゃないし。だからもう謝らないで?」



「まりやちゃん……。まりやちゃんも大翔も優しすぎだよ。

オレはもっと責められてもいいはずなのに」



宮内君が悪いなんて誰も言わない。



宮内君だって、篠原さんに傷付けられたひとり。



心に傷を負って、前に進もうともがいてる。



自分のことより私達のこと心配してくれて、宮内君は本当にいい人だよ。



だから、彼にも幸せな日がいつかきたらいいなと願う。





「で、なんで先輩まで一緒にいるんですか」



谷山先生にまた雑用を押し付けられて、遅れてやってきた大翔君は校門にいる私と栞と宮内君の他に、ここにいる麻生先輩の姿に表情を曇らせる。



「なんでって、ねぇ〜? オレももう仲間でしょ。

それに、みんなを誘ったのはこのオレなんだけど」



私達に同意を求めて来る先輩になんて返していいのかわからない。



麻生先輩がみんなでカラオケに行こうと誘ってくれたんだけど、麻生先輩に誘われたことを聞いてなかったらしい大翔君は、ものすごく嫌そうな顔をする。。



「仲間とか言って、まりやに近付こうとか考えてんじゃないですか」



「いやいや。まりやちゃんは可愛いし、そりゃあ口説きたい気持ちは山々だけど……オレ振られてるしね〜。

しかも2回も!」



軽く言ってのける先輩に私の方が居心地悪くなる。



そ、そんなに大きな声で言わなくても……。



「2回も振られてるのに、それでもまりやの側をウロチョロしてるなんて、松っちゃんに喧嘩売ってんのも同然じゃん」



悪気がない栞の言葉にももう慣れているのか、麻生先輩は傷つくどころか開き直る。



「そうなんだよ。ヒロ君のオレへの当たりがキツイのなんのってね。

だからさ、傷心のオレを慰めると思ってみんなでカラオケいこ〜!」



ひとりで意気揚々と進んでいく麻生先輩を見ながら、大翔君と宮内君それに栞の3人が声を揃えて言う。



「どこが傷心なんだよ。

どう見ても、神経図太いだろ」



あまりの揃い具合に偶然とはいえ、私だけが笑ってしまった。





駅の近くにあるカラオケを目指して歩いていると、不意に大翔君が私の手を握ってくる。



人がいても自然とそうしてくれる大翔君が嬉しくて、ひとり頬を緩ませた。



「みなさんお揃いでどこかお出かけですか?」



駅がある方角からまた篠原さんがやってきて、私達5人を順番に見る。



「あんた……また現れたの?」



「また現れたなんて、人を怪獣みたいに言わないでくださいよ」



ひとりだけ笑っている篠原さんは、大翔君と一緒にいた私に目を留める。



そして、私達が繋いだ手を見て近付いてきた。



「純礼、何しにきたの?」



そんな彼女を私達に近付けさせないためか、宮内君が庇うように私達と篠原さんの間に立つ。



「何しにって、ヒロト君に会いに来たに決まってるじゃない。

好きな人に会いたいって思うのは当然でしょ?」



好きな人……篠原さんが本当に大翔君のことをそんなふうに想ってるとしたら、やっぱり嫌だよ。



「本当に大翔のこと好きなの?」



いつになく真剣な宮内君は、彼なりに私達を守ろうとしてくれてるのだと思った。



自分の方が大変な思いをしてるのに、こんな時まで宮内君は私達のことを思ってくれて行動してくれてる。





「え〜、なぁに? 光君てば今さら私のことが好きとか?

私がヒロト君のこと好きだって言ったから焦ってるの?」



小馬鹿にしたような物言いに、そんなふうに言うことないのにと篠原さんを見つめていた。



「あのさぁ、さっきから聞いてればマジで何なの、あんた。

自意識過剰なんじゃない? 自分が誰にでも好かれてるとか思い込んでんのそっちでしょ!」



宮内君に加勢するように栞も私達の前に立って、篠原さんを睨みつける。



「何よ。私が可愛いからって僻み言わないでくれない?」



栞までバカにする彼女の言い方に、私も小さな怒りを覚える。



私達のことを思ってしてくれてる2人にそんな言い方するなんて許せない。




「ねぇ、彼女さんもそう思うでしょ?

あなたは確かに可愛いけど、ヒロト君に似合うのは私だと思うの」



宮内君と栞を上手く交わして、私のところにきた篠原さんは、私にだけ聞こえる小声でそんなことを言った。



確かに篠原さんは可愛い人だと思うけど、大翔君に似合う人とかそんなこと関係ない。



大翔君を好きな気持ちだけは、誰にも負けないって胸を張れるから。



唇を引き結んで耐えていた私は、篠原さんに言い返そうと顔をあげた。