「今のまりやちゃんが可愛いだけでしょっていうのは、訂正してほしいんだけど」
俺が言おうとしていたことを麻生先輩が言うなんて思ってもなくて驚いた。
光も信じられないという顔で麻生先輩を見ている。
「何? あなたもヒロト君の彼女さんが好きなの?」
「まぁ、今まで出会ってきた女の子達よりも気に入ってはいるかな。
だから、可愛いだけでしょっていう言葉は訂正してほしくてね。
キミは、まりやちゃんの何を知ってるの?
友達でも何でもないのに、彼女の何がわかるのかオレに教えてほしいな」
決して声は荒げずに冷静に穏やかに尋ねる麻生先輩に篠原が少し怯んだのが気配でわかる。
それにしても、どさくさに紛れて“気に入ってる”とかサラリと言うんじゃねーよ。
まりやのことを悪く言われて、言い返してくれたことには感謝するけど、そこは聞き流すことができない。
「わかるわ。見てるだけで、どんな子なのかくらい。
とにかく、私はヒロト君のことを好きになったの!
言いたいことは伝えたから今日は帰ります」
麻生先輩に責められて、自分の方が分が悪いと思ったのか、篠原は早口にそう言って逃げるように駅の方へ走って行った。
「ふぅ〜。何とか丸く収まったかなぁ」
篠原の背中を無言で見送っていた麻生先輩がこの雰囲気を壊すように、ふざけた感じに声を出す。
「どこが丸くなんですか。
解決どころか余計面倒なことになったと思いますけど」
「あ〜やっぱり? あの子結構しつこそうだもんね。
これで諦めるというタイプでもなさそうだし、いやぁ困った困った」