怖い。
こんなふうに男の人に詰め寄られるのは初めてだ。

草太くんは人付き合いは淡白だから、もっとあっさり受け入れられると思ったのに。
予想外の彼の執着に全身が震えてきた。


「その男とより戻すわけじゃないんだろ? だったら紗優は俺のもんだ。誰にも渡さない。……茂にも」


茂くんなんて関係ないじゃない。

彼の気持ちの在処が分からない。
私に固執しているのは、茂くんの存在があるからじゃないの?


「私の気持ち無視しないで。別れたいの。もう一度まっさらな状態になりたいの」

「それこそ勝手だって言ってるんだ!」


もう一度、彼の手が振り上がる。
私はギュッと目を閉じて、やがて来るであろう衝撃に備えた。


だけど、しばらく待っても頬に痛みは来なかった。


「なんだよ、お前!」


代わりに聞こえてきたのは、草太くんの荒い声。

恐る恐る目を開けると、誰かが彼の手を抑えている。


「紗優ねえちゃん、こっち」


聞き覚えのある女の子の声がして、私は腕を引っ張られる。

誰かに肩を抱かれた、と思ったらそれはサイちゃんで、私の腕を掴んでいるのは琉依ちゃんだと気づいた。