我に返ったのは玄関のベルが鳴った時で、外は随分と暗くなっていた。
私は一瞬何が起こったか分からなくて。
まず電気をつけて眩しさに目を瞑った。
すぐに再び玄関を叩く音がする。
「誰?」
「紗優? 開けて」
「……草太くん?」
夢中になりすぎていたらしい。
そういえばお腹が空いているなんてことにも今気づいた。
頭が回らず、何の気無しに扉を開けた。
すると目に飛び込んできたのはバラを二十本ほどあしらった大きな花束だ。
「きゃっ」
「紗優、入れて」
彼は私に花束を預けると、さっさと中にはいって扉を締める。
「どうしたの、これ」
問いかけると、草太くんは私を見下ろしどこか影のある甘い笑顔を見せた。
「お詫びと約束の印。許して欲しい。もう浮気なんて絶対しない……ていうか、浮気のつもりでもなかったんだ。その場限りの割りきったもんだったし」
「なにそれ……」
割りきってそういうことができることが一番苛つくのに。
でも胸に抱きしめた花束からいい香りがしてきて、胸のしこりが少し溶かされる。