結婚して初めてのバレンタイン。
今更、彼氏にするみたいなドキドキのイベントではないんだけど。
「うわ、匂い甘い」
「あ、おかえりなさい」
徹夜明けの彼が、家に入ってくる。
今日はバレンタインデー。
私は朝からチョコ作りをしている。
「チョコ作ってたの?」
「うん。智は甘いもの嫌いだからいらないでしょ?」
本当は知ってる。
それほど好きじゃなくてもチョコは食べれるってこと。
手作りをしているときは欲しそうな素振りで近くに来ることも。
それでも私が頑なにあげないのは、
最初に渡そうと思った高校二年のバレンタインデーに、先に新見さんからチョコをもらっていたからだ。
「義理でもらった」
なんて、あっさり言ったけれど。
新見さんはあの頃智のことが好きで、でもそういうの全部諦めて私たちのこと応援してくれてて。
だから義理チョコぐらいでヤキモチ焼くなんて心が狭いって思うけど、嫌って気持ちも消せなくて、自分がキライになりそうだった。
しかも智が無邪気にそれを私に食べてなんていうものだから、
モヤモヤは一瞬イライラに変わって、自分で食べなさいって怒鳴ってしまった。
心のモヤモヤはその後も消えることはなく、自分で用意していた甘さ控えめのチョコは渡せなかった。
そして、バレンタインにチョコを贈るのはやめようって決めた。
どうせ、甘いモノは嫌いなんだし。
他のもので渡せばいい。