「大丈夫だから、頑張れ」
壱瑳の両腕を掴んでそう言った。
驚いたように私を見つめる壱瑳は、いつもの無表情な顔の口元だけを緩ませて笑う。
「ありがと。琉依」
「いっ、行ってらっしゃい」
「うん」
ぎゅ、と一度壱瑳の服を掴んで離す。
大丈夫だから。
私は、いつまでたっても壱瑳のお姉ちゃんだから。
この気持ちが、いつか恋からもっと穏やかなものに変わっても、変わらず壱瑳が大好きだから。
見守ってるから行っておいでよ。
壱瑳の背中が、駅の構内に消えていく。
と同時に、盛り上がっていた私の気持ちは徐々に萎んでいった。
……でもまだ、恋に近いところに気持ちがあるから。
痛いんだよ、ちょっと。
それでも、天秤にかけて重いのは壱瑳の笑顔のほう。
胸が痛くても、壱瑳が幸せな方がいい。
「……何やってんの、琉依」
聞き覚えのある声が、耳をくすぐる。
「腹でも痛いんじゃねぇの」
腹立つ声も聞こえる。目尻にたまった涙を見えないように拭きとってから顔をあげる。
絶対に、コイツには泣き顔なんて見られたくない。
「なんでアンタたちがここにいるのよ」
顔をあげると、いたのは予想通り彩治と西崎だ。
並ぶと西崎のほうが背が高い。でも存在感は彩治のほうがあるかな。