「彩治」

「報われなくても、恋って出来るもんなんだよ」

「なにそれ詩人」


やめて。
そんな熱っぽい目で私の事見ないでよ。

彩治の気持ちには応えられない。
だけど、彩治は私にとって必要な友達だ。


「琉依もそうだろ?」


彩治はどこまで気づいてるんだろう。
私の、壱瑳への気持ち、知ってる?


「……でも私は、諦める努力もするよ。前に進みたいもん。いつまでも不幸ヅラなんかしていたくない」


彩治は、キョトンとしたと思ったらくしゃりと笑い出す。


「あはは。さすが琉依」

「誰だってそうだと思うよ。不幸でいたい人なんていない」


だから私は壱瑳への気持ちを終わりにする。したいって思っている。
彩治は……そう思ってくれないの?


「でもな。報われなくても幸せって時もあんだよ」


頭に、彩治の手が乗った。荒っぽく撫でられて、髪の毛がボサボサになる。


「そんなの変」

「変じゃねーの。本人がいいって思ってりゃそれでいいじゃん」


彩治が笑うことで、気まずくなりそうな空気が柔らかくなる。
ホッとした自分に、ちょっとだけ罪悪感。

彩治はいいヤツだ。
男女問わず友達が多くて、元気で明るく、一緒にいると楽しい。

彩治を好きな女の子はたくさんいるんだから、早く私のことなんて友達に戻して欲しい。
ぎこちなくなるのは嫌だ。


「あれ、駅まで来ちゃった」


彩治の家は途中で曲がらなきゃなのに。


「送ってくよ。琉依んち、駅から遠いじゃん」

「いいよ。お母さんに車で迎えに来てもらえばいいし」

「そ? じゃあ改札までな。定期で入れるし」

「……いいのに」


それは友情の範囲を越えるでしょうと思ってしまって、胸がモヤモヤする。

彩治がいて壱瑳がいて私がいて、三人でただ無邪気に過ごした時期がとても好きだった。

私の壱瑳が好きな気持ちも、彩治の私を好きな気持ちも、時を巻き戻して消してしまえればいいのに。