満腹になったところで、私と彩治は一緒にアパートを出た。


「じゃあまたね。サイちゃん、琉依ちゃん」

「ん。じゃあねー」


見送られて歩き出す。白い息がふわりふわりと空を舞った。


「彩治、よく来るの?」

「んーたまに。智にーちゃんとゲームしに」

「私は紗優ねえちゃんと話に来てるよ?」

「今までかち合わなかったのが不思議なくらいだな」


歩きながら、彩治が一歩先を歩くのに気づく。

ついこの間まで、私と彩治の背は同じくらいだったのに。
遅い成長期なのか、この一年で彩治は十センチ伸びた。
当然歩幅も広くなって追いつけない。


「あれ、もしかして早い?」

「早いよ。自分がでかくなった自覚ないの?」

「あ、そっか。ワリィワリィ」


私と彩治の距離は親友の距離。
腕が接するくらいに近くを歩くけど、触れたりすることはあまりない。


「彩治」

「ん?」

「壱瑳から好きな人の話って聞いたことある?」

「……妬いてんのか、琉依」

「別に。気になるだけ。お姉ちゃんだもん」

「よく言うー」


くっくっと笑うので、ムカついたから体ごとどついてやった。
そうしたら、彩治も押し返してきて、静かな声で答える。


「……なんか、バイトの人だって話だろ? 脈はないって言ってたぜ。でも好きなんだと」

「なにそれ、報われない」


彩治の足がピタリと止まる。
一歩先に歩き出してしまって、慌てて止まって後ろを振り向く。