身を乗り出して懇願すると、お兄ちゃんは変な顔して逆に私を覗きこんできた。


「お前、何困ってんの」

「わかんない。自分でも」

「誰か好きな男でも出来た?」

「それは、……違うけど」


尻すぼみになって黙ったら、お兄ちゃんがポンと頭を叩いた。


「内緒だぞ? 紗優と付き合いだして初めてのバレンタインデーに、クラスメイトから義理チョコをもらった。
義理だって言われたけど、そいつには前に告られたことがあって。ちょっと複雑な気分だったんだけど」

「それ、紗優ねえちゃんに言わなかったの?」

「義理チョコもらったとは言ったよ? 甘いもんは苦手だし、紗優に食べてもらおうって思って。そうしたら怒られた。自分で食べなさいって結構本気で」

「ああそう」


何やってるのかなお兄ちゃんてば。


「その時の返しは琉依たちが作ってくれるクッキーだぜ? 食ったら無くなるものが無難だろ」

「……好きじゃないから?」

「相手も困るだろ、残るものは」


なるほど。
確かに、残るものは重たいか。
でも、じゃあ逆に記憶に残っていて欲しいなら物を贈るのかな。

壱瑳、……どうするんだろ。
今日だってバイト休みなのに出かけてたし、もしかして何か色々探してたのかな。

ああ、胃の辺りがぐるぐるしてきた。
私を落ち着かせてくれるのはいつだって壱瑳だったはずなのに、今は壱瑳のことでモヤモヤすることが多い。