「……というわけで」

「まだホワイトデーじゃねぇだろ」

「だって、出来たてのほうが美味しいじゃん?」


不機嫌な声で私を睨むのはお兄ちゃん。

お兄ちゃんは紗優ねえちゃんとの再会を果たし、ヨリも戻して一気に同棲までこぎつけた。
普段はあんまり冴えないお兄ちゃんだけど、紗優ねえちゃんのことに関しては、頑張るなぁって思う。

新しく借りたというアパートは、彩治の家と最寄り駅は一緒だ。
場所的にはうちからもそう遠くはない。
ただ、直通の交通機関がないので、電車だバスだと乗り継げばそれなりには時間がかかるけど。


「紗優ねえちゃんいないの?」

「今日は昼番。夕方ならなきゃ帰ってこないよ。後一時間ぐらいだし、中で待ってろ」

「で、お兄ちゃんは休みなの? 一緒に暮らしても案外時間合わないもんなんだね」


私は上着を脱ぎながら中に入って、お茶も勝手に入れる。


「まあそうだな。仕事したら誰でもそうじゃね?」

「お父さんとお母さんは土日休み一緒じゃん」

「まあそうだけど。仕方ねぇよ、紗優はシフト制だし。俺も基本決まってるって言っても変動ばっかだし」

「ふうん。大人は大変だなぁ」


あまり本気でもなく言って見ると、お兄ちゃんは変な顔して私を見る。


「琉依、お前何かあった?」

「なんで?」

「何か変だろ。……何がって言われるとわかんねぇけど」


私が、なんだかんだ言ってお兄ちゃんが好きだなって思うのはこういうところだ。
おしゃれとか外見的なものはさっぱりなくせに、内面のちょっとした変化には、結構気づいてくれるんだよね。