バレンタインの夜に、食べきれないからって壱瑳が私にくれたチョコは五個。
明らかに義理ってのも、これは実は本気なんじゃってのもあったけど(もしかしたらこれが明桜ちゃんのチョコだったかもしれない)、私に食べさせるってことは壱瑳の方は本気じゃないってことだ。
ガッツリ食べたその後で、壱瑳の部屋の机の上にチョコレートの空き箱を見つけた。
一つは、私があげたビックマーブルチョコ。
そしてもう一つは、いかにも義理チョコっていう感じのトリュフチョコが三個入るだけのケース。
あの人にもらったのかな。
そう思って、まだ少し胸が痛む自分を自覚する。
私は壱瑳の双子のねえちゃん。
だけど、壱瑳のことを好きな女の子。
その割合は今は6:4くらい。
早く元気になれ、振られた私。
ただの壱瑳のねえちゃんに戻るために。
「本命っぽい人からはもらってた?」
「どうかな」
「お返し……くれるかな。義理でもいいんだけど」
「んー、毎年私とお母さんでクッキー焼いてるよ」
「えっ、そうなの」
身を乗り出してびっくりされても困るけど。
男兄弟のバレンタインのお返し準備するのってふつーじゃないのかな。
「琉依のクッキーがくるのかー」
「なんで残念がるよ。美味しいよ。私クッキーは毎年作るから上手だって」
本気で落ち込まれて、こっちも本気で弁明する。