「紗優、こっち来いよ」
予想外に荒れ始めたテーブルから、智が連れだしてくれる。
「木下が荒れると面倒クセェから。こっちこっち」
呼ばれたテーブルには智の同級生が集まっている。
「わああ、紗優ちゃん先輩。なんで智なんかと結婚しちゃうんだよ」
と、智から奪うように私を引っ張ったのは夏目信也くん。
「し、信也くん。久しぶり」
「智なんて走るのが得意なだけじゃん。なんで紗優ちゃん先輩みたいな可愛い子捕まえるんだよ」
ぼやく信也くんに、「なに、アンタまだ一人なの?」と新見さんが小馬鹿にしたように告げると、「最近振られたんだよ」と不貞腐れたように答えた。
「げ、元気だしてね。信也くん」
「やっぱり優しい! 紗優ちゃん先輩」
励ますつもりで言ったら、信也くんは瞳をキラキラさせて私の両手を掴み、智に勢い良く頭を叩かれた。
もう、芸人さんのツッコミみたい。
その隣でクスクス笑っているのは雨宮珠子ちゃん。
ふっくら丸みを帯びたお腹が気になって聞いてみると、既に妊婦さんなのだそう。
「じゃあもう雨宮じゃないんだね」って言ったら、にっこり笑われた。
当時の彼氏だった荒川和晃くんは今は別の相手とお付き合いしているそうなんだけど、あんまり根掘り葉掘り聞くのも気が引けて、追求するのはやめておいた。
「子供生まれたら、葉山先輩の絵本読ませるね」
なんて笑ってくれて凄く嬉しかった。
一人一人に、ドラマがあるんだよね。
時間は誰にでも均等にもたらされて、それぞれがもがきながら生きて物語を描いていくんだ。