でも、結婚の話は全然聞かない。長い付き合いでも本人たちのタイミングがあるんだと思うから、口出しはしない。


「あはは、俺たちもいろんな事情があるんだよ】


お兄ちゃんは、触れられたくない話になると笑って誤魔化す。昔からそうだし、意外にお調子者でもある。


「そうですよねー。みんな、いろんな事情を抱えているものですよね。あっと、すいません。ちょっと失礼します。葵、拓真に電話してくるから待ってて」


「ああ、うん。はいはーい」


テーブルの端に置いてあった里沙のスマホが着信を知らせるランプを点滅させていた。気付いた里沙は素早く操作して、慌てて店の外へと行く。拓真からなら仕方ない。すぐに連絡をしないとかなり不機嫌になるからだ。


「里沙ちゃんの彼の束縛は相変わらずなの？」


お兄ちゃんは里沙の恋愛事情を知っている。


「うん。でも、二人は仲良しだよ」