自分の中の黒い部分がぐるぐると渦を巻く。やっぱりこの人は苦手だ。

小島さんの口紅が剥がれている。いやだ…もうこれ以上見たくない。ここにいたくない。


「榎本さん、わざわざありがとうございました。早速帰ったら見せます。お先に失礼します」


「あ、うん。気を付けて、帰ってね」


私は頭を下げて、心と裏腹の笑顔を作った。藤沢さんと小島さんの顔は見ないで、榎本さんだけに笑顔を向ける。

榎本さんは少し複雑そうな笑顔を返してくれた。何かを感じたのかもしれない。


「私も帰るわ。萱森さん、途中まで一緒に行きましょう」


小島さんはもうそのまま帰れるようで、バッグも持っていた。途中までとはロッカー室までだろう。だけど、少しの間でも一緒に歩きたくない。


「すみません。私、急ぐので」


小島さんの返事を聞かないで、足早にその場を離れた。後で何か言われるかもしれないけど、もう気持ちを抑えるのがギリギリだった。