「はい、魔王ね。それと、手羽先も焼けたよ」


「おー、うまそう!渉さんも食べて、食べて。葵ちゃんもほら、食べてねー」


ものすごく緩んだ顔で手羽先の入ったお皿をこっちに向けた。わっ…緩んだ顔の藤沢さん、かわいい。


コツン


「いたっ、何ですか?渉さん」


お兄ちゃんがメニュー表の角で藤沢さんの頭を叩く。今度は何?


「勝手に葵を名前で呼ぶなと言っただろ?」


「そうでしたっけ?いいじゃないですか?会社以外では葵ちゃんと呼ぶと決まっているんですから。ね、葵ちゃん」


コクコク

頷くことしかできない。だって、藤沢さんの向こうに見えるお兄ちゃんの顔が般若のようになっているから。


「誰が決めたんだ?」


「俺です」


「取り消せ」


ほら、お兄ちゃん、目が怖い。本気で怒っているように見える。あ、本気なのかな?

でも、藤沢さんはそんなお兄ちゃんを気にしないで手羽先にかぶりついている。