「渉さーん、今帰りですか?お疲れさまです。こっち、どうぞ、どうぞー」


ん?まさかもう酔ってる?呑気にしては口調が砕けているというか、明るすぎる?

まだ一杯目のはずなのに…グラスの中は残り少ないけど、まだ一杯だけだ。


私は一番端に座っていたから、藤沢さんの隣かその隣しかカウンターは空いていない。お兄ちゃんは渋い顔をして、藤沢さんの隣に座った。


「今日は俺が俺が奢りますから、どーんと飲んで、どーんと食べてくださいよ。あ、俺、梅サワーをください!」


やっぱり酔っている。


「俺、魔王」


「え?お兄ちゃん!」


「どーんと飲めと言ったぞ。なあ、幸紀?」


「はい。好きなものをどんどん飲んでくださいよ」


幻の芋焼酎の1つを頼むなんて…高いのに…いつもは黒霧島とか赤霧島とか安いのを頼んでいる、やっぱり藤沢さんには意地悪だ。

藤沢さん、大丈夫かな?所持金が心配になってくる。お兄ちゃんは絶対に一杯だけで満足しないだろうから、金額がどんどん増えていくはずだ。