空いたテーブルを拭いていたミカちゃんと呼ばれたバイトの女の子が答える。今日辺り、来る?


「藤沢さん、お兄ちゃんが来るかもしれないですよ」


「うん、砂肝もうまいよ」


藤沢さんは呑気なのか美味しそうに食べているだけだ。来たらまた酔わせられてしまうかもしれないのに。


「早めに帰りましょうよ」


私は藤沢さんの腕を掴んで、揺すった。早く食べて帰ろう。店長の後ろにある四角い置時計を見た。早くといってももう8時になるところだった。

お兄ちゃんの勤めている会社は横浜にあって、いつも7時半から8時半頃に帰ってくる。もし来るなら、今頃だと思う。

思わず出入り口を見てしまう。


ガラッ…


「わあ!」


「わっ、なんだよ、葵。大きな声出すなよ、びっくりするじゃん」


「おー、渉くん。今、ちょうど噂をしていたんだよ。ほんと噂をすると来るねー」


「え?俺の?…なんだ、幸紀もいるじゃん…」


私の隣にいる藤沢さんを見つけると、あからさまに嫌な顔をした。やっぱり嫌ってる?