今まで心の奥に蓄積していた不満が、一気に爆発してしまった。

一度崩れてしまった堤防は、もう元には戻らない。


「――ふざけんなよ!おまえだってフリーターのくせに、おれにばっかりでけぇこと言えんのか!?
いつもバイトまでだらだらして、家事は全部おれ任せで、そんなに人のこと見下せる立場かよ」


その言葉に――実織は目をみはって正史を見た後、しばらく黙り込んだ。

随分と長い沈黙の後、先に口を開いたのは実織のほうだった。


「――居候のくせに……もう出てって」












翌日、正史は実織が起きる前に家を出た。

何も知らずに眩しい光をふりそそぐ太陽を、こんなにもうらめしく思ったことはない。


鍵を静かに回した後、キーケースにつけていた実織のアパートの鍵を外した。

付き合い始めて一ヶ月で実織からもらった合いカギ。


音が響かぬよう、ドアポストへとそっと、放り落とした。





カチャンと、ポストに落ちたことを告げる金属音は――もうふたりが、昔のようには戻れないことを意味していた。