ほんとうは好きなのに、素直になれない。

ほんとうは別れたい、なんて――これっぽっちも思ってないのに、“ごめんね”の一言が出てこない。



独りになった実家の自分の部屋で、正史はケータイを握りしめたまま固まっていた。


謝ろうか……それとも実織のほうから謝ってくるのを待とうか。


つまらないプライドが、ふたりの仲直りを邪魔している。

連絡をよこさない実織にも、何もできない自分自身にもつくづく嫌気がさして、正史が畳の上へケータイを放り投げたとき、


正史のケータイが鳴った。




慌てて飛び付くと“着信・実織”の文字。

思わず嬉しくなってしまった自分の心をぐっと押し殺して、


「――はい」


なるだけ冷静を装おって、機嫌悪そうに電話に出た。


「……まーくん……」


久しぶりに聞く実織の声に……正史の胸はかきたてられた。

いつもと――様子が違う。


なんだか今にも泣きそうな震えた実織の声に、正史は妙な胸騒ぎを憶えていた。