「……愛果っていっつもこの話題になると黙るよなー」

そう言いながら、彼は優しく私の頭を撫でる。
彼の手からは、暖かさを感じた。
このかんじ、なにか懐かしさを感じる。
まぁ、気のせいだと思うけど。

「おーい、あーいかー?聞いてんのー?」
「あ、ごめん。ちょっとボーっとしてた」
「……ま、良いけどさ」

私の頭から手を離し、前を向きなおす彼は、ついていたテレビに目を向けた。

彼は、三十代半ばのオッサンだ。
顔は上の中くらいでそこそこ良いし、優しくて素直な人。
奥さんに捨てられたと、ある雨の日に立ち尽くしていた彼に声をかけたのがきっかけ。
その時の彼はひどく落ち込んでいて、どうかしてあげたい、と思ったのだと思う。
あまり、その時のことは覚えていないのだけど。
あの瞬間から、体の関係は始まった。
体だけ、の。