ボクは冷やされた腕を反対の手でさすりながら、

「怒った?」

と聞いてみた。

「怒ってないわよ。呆れただけ」

タオルで床を拭きながら彼女が言う。

「うん」

ボクはなぜか悲しくなってしまった。

怒っていないというけれど。

呆れただけというけれど――。

紗良奈は、何度か大きなため息をつきながら床を拭き終え、

「あとはわたしがやるから座っていて」

ボクの肩を押した。

ボクはおとなしくソファーに座る。

そして、横目で彼女を眺めていた。

洗面所にタオルを置いた紗良奈が戻ってきて、薬缶に水を入れている。

怒っていないといったけれど――

たぶん怒ってるんだ、ほんとはね。

出しっぱなしになっていたガラスのビンを紗良奈が掴む。