「…はい。」
顔を下に向けると同時にそんな声が聞こえた。
目の前にマグカップを差し出されていて、それには温かいココアが入っているようだった。
龍と呼ばれる人は照れ臭そうにぶっきらぼうに渡してきた。
それを受け取ると、冷たかった手がじわじわと温まっていく。
「殴って、ごめん。」
それだけ言うと、その場を離れて行った。
煙草の押した跡については何も聞かないんだ、ならよかった。
そう思って、ほっと一息つく。
「なに、なんかあったの?」
「あいつが女子に優しいとか、めずらしー。」
颯人が私の横に腰を下ろした。
近づいてくるそのたびに、ちょこっとずつ離れる。
分かりやすく離れていく私に、颯人は口の端をとがらせ不満そうな表情を見せる。
それでも、近づこうとはしない。