周りの総ツッコミなど聞こえない
奏来は「やばい」を繰り返し
廊下を走り抜けて行った。
そしてたどり着いた先は図書室。
およそ図書室にはそぐわない奏来だが、
意外にもガラリと扉を開けることなく
そろそろと引き戸をあけた。
(急停車の勢いで扉に手をついたので
音はうるさかった。)
そしてしばしキョロキョロし、
目的の人物を目に捕らえると
早足で詰め寄り
とても必死な大きな声で、
「助けて!」 と宣ったのであった。
「だから、お前ここ図書室だから。」
そういって
大森 拓弥(おおもり たくや)は
読んでいた本をパタンと閉じ、
大声の元である奏来の胸元を
その本で軽く叩いた。
「拓弥!
そんなこと気にしてらんないってば!」
「は?」
とりあえず煩いので外に出ようと
興奮気味の奏来を出口に
促しながら、拓弥はその言葉に
眉を潜めた。
訳が分からないからではない。
.........訳が分かりすぎているのだ。
「「進級、出来ないかもしれない!」だろ?」
奏来に被せるように
顔はそのままにして心底嫌そうに
声を発した。
きょとん、とした奏来の顔に
拓弥はやっぱり....と内心で思いながらも
俺が危惧してるのはそこじゃない、と
未だ出口に向かってこない奏来に
近づき、とても苦々しい表情と声色で
先手をうつ。
「俺、教えないからね。」
「え。」
ひきつった声を出す奏来に
淡々と頷く。
「嘘、嘘だよね?」
目に見えて狼狽え、
拓弥の腕を掴む。
その行為と奏来の可愛らしい見た目に
惑わされそうになるも、
長年の経験たちが警報を鳴らした。
「.....嫌だ、無理。
奏来に教えるくらいなら
犬に教えた方が早いし。」
「そ!そんな...。」
「だから、諦めて一人で
頑張りなさい、わかった?」
あまり奏来をみていると
お節介がにじみ出てしまうと
判断した拓弥は
掴まれた手をそっと離し、
頭をぽんぽんとおざなりに叩くと
出口へとあるきだした。