「……なんでこの席なの」

あたしは重い溜息をついた。

だって、あたしの席…。

周りをムーンボーイズに囲まれてる状況。

これじゃ、どうなるのよ、これから。

女子の痛ぁーい視線が突き刺さること間違いなしだよね。

憂鬱で仕方がないよ。

「いいなぁ、東城さん。あの席だったら毎日が薔薇色ね」

「でも、凛華様だから許せますわね」

みんな…そんなこと言わないで席変わって…。

だけどその時、また別の声が聞こえてきた。

「なぜ東城さんがあの席なんですの?ムーンボーイズに東城さんはふさわしくないですわ」

こんな声もあった。

「ブスのくせに、調子乗るんじゃないわよ」

はぁ…。

お嬢様特有の悪口。

そんなにあたしって嫌われ者なのかなぁ。

悲しくなってくる。

「凛華!顔が暗いよ?」

「あぁ、梨央奈ぁ助けて」

「ほんとにこの席だなんてこれから不幸しか待ってないわね」

「そんなこと言わないでよ…」

その時、前のドアがガラッと開き、きゃぁぁぁぁぁという声があがった。

「ムーンボーイズよ!」

「遥希様ぁ!」

あ…来ちゃった。

どうしよう。

こんな席だし、ムーンボーイズから注目されること間違いなしじゃん…!

「あれ、君ここの席なの?」

「……」

「ねーぇ?」

ぼーっとしてたら不意に顔を覗き込まれあ た。

「っえ、あ、そうです」

「ふーん、ま、よろしくね♪」

この人、名前なんだっけ?

「俺は、道田郁ね。郁って呼べよ」

呼ぶつもりは一生ないんだけど…。

「あー可愛い子がいるぅ」

「えっきゃぁ」

突然抱きついてきた。

せ、セクハラ…!

「俺、内田大和ね!大和って呼んで!」

あなたも呼ぶつもりは一生ないけど…。

「おい、大和。あんまりいじめんじゃねぇ」

え、この人誰?

「俺は桜庭怜音。れんって呼べば?」

なんで上から?

そのとき、一際色気のある声が聞こえた。

「おぃ、なにやってんだ?」

「あー遥希、この子俺らの席のど真ん中なんだって、かわいそー」

「かわいそーとか言うなよ、大和」

「まぁ、俺らが可愛がってあげるけどね?」

ひぃぃぃ!

「あ、こいつ坂田遥希ね。あんま喋んないから」

自己紹介されても…関わることもないだろうし。

「「「よろしく、凛華」」」

なんで、呼び捨てなの…。

もう、帰りたくなってきた。