ワオ。



「私……薔薇湯とか、漫画でしか見たことないんだけど……」



連れてこられた部屋の付属のバスルーム。

いつから準備されていたのか、そこには大量の赤い薔薇が浮かべられていたのだ。

現実離れした空間に、思わず一歩後ずさる。



「お嬢さまなら絵になるでしょうねぇ……」




それはどうだろう。

ちょっと過剰な期待をしているメイドさん達。

これがお姉ちゃんだったら、完璧に絵になるだろうけど、私じゃねぇ……。

でもとりあえず、せっかく用意してくれたんだ。



「入らせてもらいますね。」

「え。」

「え?」


入らせてもらう。

そう言うとメイドさんは驚いた。

それを見て私は、今なにか変なことを言っちゃったのかと心配になり、自らの発言を思い出すが何にも変なところはない。


「What are you saying,lady!」


キョトンとしていると、アメリカ出身のメイドさんがケラケラと笑っていた。



「ふふ、お嬢さま。勿論洗わせてもらいますよ。」

「え?」

「ミラノ直送の香油がありますから、使いましょうね。」



アラワセテ、モラウ…………

デジャブのように手を伸ばしてジリジリと迫り来るお姉さま方。

間違いない、このままだと剥かれる。





「ひ、い、きゃあーーーー!!」








死闘、続く事3時間半。


「素敵です……!」

「ありがとうございます……」


キラッキラの視線を向けられて照れる。


薄紫色のウエスト部位に真珠のパールの装飾が施された、オーガンジーのドレスを着せられ、髪はテンション高めなお姉さん達によってふわふわに巻かれた。


香油とか、薔薇風呂とか、ドレスとか。

かなり大変だったし恥ずかしかったけれど、なんだかお姫様になったような気分でちょっぴり嬉しかった。

私の支度が全て終わったからだろう。

メイドさん達は周りを片付けて部屋を出ようとしていた。




「では私達は、吉良様の準備に行ってきますね。」

「あの……私も行っていいですか?」

「では一緒に行きましょうか。」



にこりとメイドさんは笑う。

良かった。

ほら、部屋といえども一人になるのはちょっと嫌だったから。



陰飛羽の家よりは格段に大きい此処には、たくさんの階段や廊下がある。

私の使わせてもらっている部屋からお兄ちゃんの部屋までも、それなりに長旅で。

階段を上っている時だった。


「あら。」



少し甲高い、そして何処か冷たい声が上からしたのだ。

反射的に私は声の主を探して上を向く。



「……真子叔母様。」



そこには、出来れば会いたくなかった真子叔母様の姿があった。