烏丸財閥本社のオフィスは丸の内にあるのに叔父様が此処にいるということはきっと帰ってくるお兄ちゃんと私を出迎えるためだと思う。

相変わらず優しい人だな、と思わず笑みが漏れた。



二階の南側にある、重々しい雰囲気のニス塗りの木の扉。

秘書さんはドアを静かに二回ノックし、お連れしましたと言う。

どうぞ、と返事が聞こえたのでお兄ちゃんと私は部屋に入り、「ただいま帰りました」と頭を下げた。

ここまでは定石なのだ。

そうして顔をあげて、そこで私は「お帰り」と微笑む真尋叔父様を見た。



灰色のスーツに赤いストライブのネクタイをしている叔父様は一年ぶりに会うのに以前と変わらずダンディーである。

つやつやの黒い髪だとか、腕まくりしているシャツの隙間からちらりと見える筋肉だとかを見ると、若い頃はさぞモテたんだろうと容易に予想ができた。

いや、うん。お兄ちゃんとお姉ちゃんのお父さんなんだからイケメンで何ら不思議はないんだけどね。





「志乃は、生徒会の仕事が忙しくて来られないみたいだね。残念だけど、志乃の分もゆっくりして帰りなさい。」



お姉ちゃんの事情はきっと本人から伝わっているのだろう。

大財閥烏丸の社長さんな真尋叔父様だけど、この時は年頃の娘を持つ普通のお父さんみたいに、ちょっと残念そうな顔をした。



「今日の夜は、三人で食事に行こうか。学校生活の話でも聞かせてほしいな」と。

かなり多忙な筈なのに真尋叔父様はそう約束してくれて、そんな真尋叔父様の優しさに応えるためにも私達は仕事の邪魔にならないように部屋を出た。




「あの人には相変わらずのカリスマ感があったな。」

「本当に。さすが社長さんだよね。」



一年ぶりの実家。

お兄ちゃんとは喧嘩期間もあったから、かなり久しぶりに二人でこの家を歩いたから、何だか変な感じがする。




「夜まで結構時間あるね。」

「一人にならない方がいいだろう。俺の部屋に……」

「お嬢さま!」



大きな声に振り向くと、可愛らしいメイドさんが5人。

可愛らしいのだが何故か鼻息が荒いというオプション付きだった。



「いや、必要ないか。」

お兄ちゃんはメイドさんと私を見てクスッと笑うと、「頑張れ」と手を振って一人自室に向けて歩き出した。



そして残された私は…………




「お嬢さま、ドレスアップしますよ!」

「ド、ドレスアップ。」

「Yeah、Harry up! masterは六時頃に終わりますから、残されたのは only 4hours!」

「ソウネ。時間、ナイネ。」



ジリジリと迫り来る、多国籍なメイドさん達。

ドレスアップ……という名の人形遊びの餌食になってしまったらしい。