騙していた訳じゃない。

灰音はまるで、人生の終わりみたいな口調でそう言った。



……てんで分からない。

私は灰音が何をそこまで悲観してるのかが分からなかったのだ。




「初伊がそう思ってるなら、あわよくば秘密にしておこうとは思ったりしたけど、騙したかった訳じゃないんだよ!」



そう言う灰音に、つまり?と要点を聞いた。


そうすれば、うっ、と痛いところを突かれたような顔をしてるから、やっぱり本題には入りづらいらしい。




灰音は、私の手を取った。

そしてそれをゆっくり北聖のリボンに近づけていく。

いや、違う。

それを、自分の胸に近づけていったんだ。





例えばここが、キャッキャウフフな女子会会場だったとしたら、ノリとしてそんなボディータッチ位あるかもしれないけど


今は男だらけ。女子会とは無縁のこの場で……

私は焦っていた。

灰音が変な目で見られちゃう!と。




そもそも、どうしてこうなったと頭を捻る。

灰音の言いづらい事は、胸に関係した事なんだろうか。


はっ!

胸からロケットパンチが出るとか?

第三の目があるとか!



色々考えているうちに、とうとうぴたっと手は触れる。





大勢の中で女子の胸に手を当てた女子。

大勢の中で女子に胸を触られている女子。



今ここに大変おかしな、そしてシュールな図が完成したよね。