シエルの初期なんて言ったら、中世ヨーロッパとかそんなレベル。

そんな年代物を、あれだけ綺麗に保存していたんだ。

灰音はそれを、凄く大切にしていた筈。




「灰音……。」



肩を落として悲しんでいる灰音に声を掛けると彼女は力なく返事をした。

やっぱりショックだろうな。





「私が来た時は無事だったんだ。綺麗なまま会わせてあげられなくてごめんね。」




多分、恵のダーツの矢が刺さったのは故意ではない。

私が鏡台の延長線上にいなかったら、 それはきっと今も綺麗なままだっただろう。


やっぱり、うん。

責任を感じて自然と謝っちゃう。





そうすればハァとため息をつかれる。


「あんたがやった訳じゃないでしょ。」



なら謝りなさんな、と辛いのは自分なのに笑って励ましてくれる灰音。

どうしよう。

とてもお姉ちゃんと呼びたいよね。






「俺がやったんだから初伊は謝らなくていいんだよ。」




その後恵はあっさりと、自己の過ちを吐露した。

あまりにもあっさりとして、被害者の灰音が「へー、そうなんだー」と聞き流しちゃう位だった。


つまり、恵は鏡台事件を全然オオゴトだと思っていないと言う事。


悪く言えば、まったく反省してないと言う事。


何が起きたかしらない橘やお兄ちゃんもこれには苦笑いした。





「あんた、もっと反省しろ!」




悪びれない。

それどころか笑顔、何故か満面の笑顔の恵に灰音がキレる気持ちはよく分かる。

それから10分以上、灰音はお説教していたが、

結局恵は「謝罪してほしいの?悪かった。…………これでいい?」と、説教の内容を何一つ分かってなかった発言をして、

灰音の怒りは呆れたせいか、一周回って収まったらしい。