「初伊。」

「は、はい。」

「私は北原天真です。北聖高校の二学年に在籍しています。気軽に天真先輩とか、天真君とか呼んで下さいね。」



いきなり呼び捨てでよばれてびっくりしたけど、そう言えば灰音もはじめから呼び捨てだったと思い出す。

北校生はフレンドリーなのかも。



「ええと、じゃあ天真先輩って呼ばせてもらっていいですか?」



お言葉に甘えさせてもらって、私もフレンドリーに接してみようと思った。

出会ったばかりの先輩を名前呼びするのは、私的には大冒険なのである。



「わぁ、いいですね。先輩後輩シチュエーションは私も大好きです。“お兄ちゃん”でも良かったんですけどね。なんだか、悪い事してるみたいじゃないですか。」









………………ん?

彼は今なんと言ったのだろうか。



首を傾げて固まる私。

おまけに浮かべていた笑顔まで固まってしまった。



「この変態が北原天真だよ」と、恵が知りたくなかった真実を突きつける。



天真先輩は、私より年上。

つまり恵よりも年上だ。


恵は年上を敬わないところがあるけれど、今回のは酷すぎる。

保護者的立場の私としては冷や汗ものだ。


でも先輩は余程心が広いのか気にしていない様子で。

そんなことよりも〜と言葉を続ける。



「初伊、メアドと番号、交換しましょう。」

「あ、はい、交換……したいんですけど、使い方がいまいちまだ分からなくて。」



お兄ちゃんは着メロを変えられる程の機械の知識を持っているが、お姉ちゃんと私は未だに初期設定のまま。

あまり機械が得意じゃないんだ。

高齢者向けのスマホとか凄く使いやすそうじゃない?

だから今のが壊れたら是非それに替えたいと思ってるんです。




「大丈夫ですよ。私に任せてくれたら、すぐに終わりますから。」




安心出来る優しそうな顔で、先輩はそう言ってくれた。

……やっぱり良い人だ。



多少変な所があるみたいだけど、言ってみれば個性。

心も広くて少なくとも恵よりは常識人だよね。



番号を交換するには、私もスマホを出さなきゃいけない。

ポケットにあるそれを出したいと願うけど、未だに解放されない私の両手…………。