どうやら、西の出禁は解けたらしい。

驚いて恵を見ると、「戻っておいで」と言われる。



南にいたのは、西に暫く来るなと言われたから。

だから西の総長たる恵に、来てもいいと言われたら行ってもいいはずだ。

でも……簡単に、はい戻りますと言えないのは、割と長い間南にいて、絆もそれなりに出来たからだろう。




「初伊。これからも、南に来ねぇか?」

「え?」

「俺はお前を苦しめねぇよ。」




返答に困っていると、そう言ったのは夜白。

お前を苦しめないというのは、さっきの恵みたいな事はしないということを示していた。




「えー、ずるいよ、それ。僕も立候補する!」



声を上げたのは今度は美琴。

軽い足取りで私の横までやってきて、軽く屈む。

ああ、天使の上目遣い。

殺傷能力Lv.MAXである。

それが例え、悪魔の一面を持ってると知っていても、だ。




「初伊ちゃん、東においで。僕、初伊ちゃんと一緒にいたい。」




どうしよう、どうしよう。

これじゃあまるで少女漫画の主人公だ。

私は漫画が大好きだけど、実演したいわけじゃないのに。

見るぶんにはウェルカムだけど、自分がするとなったら本当に困る。



というか本当に、“東西南北に関わるべからず”を守ってきたかつての私は見る影もないよ。

いや、そんな事を言ってもどうしようもない。

だって私は、ここに来ることを選択しない事も出来たのに、自ら望んでここまできたんだ。

関わったのは、私。

校則違反者は、ただ1人、私だけだ。





「───お困りなら……ここは敢えて、北って選択肢もアリじゃありません?」




困り果てているところに聞こえた声。

聞き覚えのない声に、その出処を探せば。



部屋の奥の一人がけの椅子に、脚を組んで楽しそうに笑う、見知らぬ人がいたのだった。