いつもは「来るなヤンデレ!」とかなんとか言ってるけれど、恵より私の方が先に痺れを切らして会いにきちゃった。

滑稽だよね。




どうして家に帰らなくなったのか、

どうして今まで避けていたのか。




それを聞けば恵は「くだらないことだよ」と微笑んだ。

その笑顔は……良かった、いつもと同じ、優しい笑顔だ。





私は安心して、今まで恵の顔を挟んでいた手を離そうとした。


けれど離すとすぐに、恵の胸のあたりで
恵に両手首を掴まれる。


何か……捕まった気分だ。




「寂しかったんだ。」

「寂しかった。」

「俺のこと、何だって?」

「恵がね、凄ーく大切。」

「……そっか。大切、か。」



“大切”を何度か口にして、恵は「初伊」と私の名前を呼ぶ。





「今はまだ初伊はお子様だからね。今はそれで勘弁してあげるよ。」




勘弁してくれるみたい。

私は嬉しかった。

恵がいつも通り笑ってくれるようになって。



すっかり安心しきっていたのだが、ここで安心させてくれないのが恵だ。

恵は掴んでいる私の手首を引っ張り、自分の方に引き寄せる。


そうすると必然的に恵の顔が近くなって、

彼は私の耳元で囁くように言った。





「……今はそれでいいけど……すぐにそんなんじゃ足りないようにしてあげるから。」




耳元が元から弱いのと、恵の声がやけに色っぽかったのが相まって、くらくらしそうになった。