よく、漫画でヤンデレキャラの人の目は、黒く濁ったように描かれる。


まさにそれ。


彼は極上の笑顔だ。

だけれども、目が死んでる。目が笑っていないんだ。




元の顔が良い分、恵のそれは恐ろしかった。

背筋が凍るほどに。




「初伊。」




カツカツと、靴を鳴らして少しずつ近づいてくる恵。

危うく逃げそうになるけれど、逃げちゃだめだ。

逃げたら本来の目的ほ達成出来ないでしょ。

後悔したくないんでしょ、私!



一生懸命平然を装って、「はい」と返す。



「ねぇ…………“美琴”って何?」





美琴って、名前だ。

いつもならそう返す。


けれども今恵が求めているのは、確実にそんな答えじゃなく、そんな事を言ってしまえば恵がより怒るのは目に見えていた。




「友達……だから。友達に、なったから。」


だから美琴と呼ぶんだよ、と。

未だに笑顔の恵に、目を合わせたままそう答えた。




カツリ、カツリ。





「友達、ねぇ。………………初伊は、悪い子だね。俺がちょっと目を離していたら、すぐ別の男に色目を使うんだから。」


「違っ…………そういうんじゃない!」


「違わないよね。」




カツリ、カツリ。




「誰だって、仲良くなれば、呼び捨てくらい…………。」


「あとは?仲良くなれば何するの?抱きしめられるの?キスするの?セックスするの?」


「恵!」




カツン、と足音が目の前で止まる。

ひどく冷めきった音だった。