勢いよくドアを開ける。

その部屋の中は、まさに戦場だった。



ガラスの破片が散らばり、タペストリーやなんかも破れている。

この調子じゃ、鏡台も壊れているかもしれない。





というかこの部屋、高そうな物が多い。

むしろ何でこの部屋を選んだ?!

これ程までに喧嘩に適さない部屋があろうか、いやないだろう。




キョロキョロと周りを見渡し見つけた、たくさんの家財道具や装飾品の中でも、一際輝いているそれは、

真っ白をベースとし、真ん中に天使の羽が描かれている……見事な鏡台だった。



「無事だ!」



私は部屋の端にあったその鏡台に駆け寄った。

鏡の部分をよく見れば、シエルのロゴが控えめに入っていて。

年代物の雰囲気はあるのに傷一つない。


本当に高そうなアンティークものだ。





「よくぞ無事でいてくれました……。」



ああ、よかった。

この状態なら、きっと灰音も喜ぶ。

私はそれを伝えるために、後ろを振り返った。



「灰音!無事だっ…うぐっ。」




────のだが、振り返った私の視界は黒く染まる。

誰かに頭から抱きしめられているのが分かる。

突然の抱擁に逃げようとするが、相当力が強いらしく、びくともしない。



覚えのあるシャボンの香りに、「美琴?」と呟けば、更に力が強くなったのできっと彼で正解だろう。

取り敢えず、知らない人に抱きしめられていたわけじゃないから一安心だ。





「ごめんね……。」



突然美琴が謝った。

私は謝られる覚えがなくて、何が?と聞き返す。



「遅くなってごめんね、初伊ちゃん。」



けれども彼は“何が”の部分には触れず、

胸が苦しくなるくらいの切ない声で、そう言うのだ。