それからも、ガシャン、ガシャンと音がした。

それもかなり激し目の音。



初めは何も気にしていない様子の四人だったが、次第に皆顔が引き攣りはじめる。


破壊音が十数回を超えたあたりだろうか、ふいに灰音が「あ!!」と大声を出したのだ。






「………俺の鏡台!!あの部屋にあるんだよ!嘘だろ?!あれ、お気に入りだったのに!!」


「……。」
「……。」
「……。」
「……。」




「あ“ーーーー!」と半泣きで項垂れる灰音に誰も声を掛けれなかったのは、鏡台は多分無事じゃないからだ。

そして下手に慰めると、灰音に逆に怒られるような雰囲気だったからだ。





「さいっあく……。あれ、シエルの初期モデルのだよ?超プレミア物が…………。オークションに出せば1000万は下らないのに〜!」




「「「一千万?!」」」



男組は“たかだか鏡台が?!”と値段に驚くが、私は違うところに驚いた。



「シエルの……初期モデルの鏡台?!」




シエル……正式名称CIELーinLondonは、世界中に名を轟かす、ファッションブランドである。



シエルのドレスと言えば、パリコレでオンリーワンが何点も出品される超レア物。

私も夜会用にと1枚持っているが、他のドレスとは比べ物にならない位素敵なもので。


ちなみにそれは高校入学のお祝いに、お母さんの弟’Sの千里叔父さんと美月君に貰ったのだけど……1枚買うのも死ぬほど大変だったそうだ。



そんなシエルの鏡台が、壊される?!

シエルの初期モデルのドレスやらコスメやらを集める協会まであるのに、うっかりそんなことしちゃったら……


全世界中のシエルファンに恨まれるよ!




覚悟を決めた。

きっと乱闘をしている部屋に入る覚悟。



「灰音、もしかしたらまだ無事かもしれないよ!っていうか無事でいて!」



シエルの鏡台に思いを馳せ、私は走り出したのだ。




「烏丸!待とうって!たかが鏡台に……!」

「ああん?たかが?……俺のシエル(いのち)馬鹿にしてんの?」

「そうじゃないって!……ああっ、もう!」



そのあとすぐに、橘達が追いかけてきてくれたのだが、私はそれに気がつかないくらい一生懸命に走ったのだ。