橘越しに、後ろに控えていたらしい蛍君と目が合った。



「初伊先輩、こんばんは。」


お兄ちゃんに怒られている所を見たからか、苦笑いの蛍君。


「こんばんは、蛍君。…………来ちゃった。」


私も苦笑いで返事をする。


蛍君がいる。

じゃあ美琴もいる。



四校が集まってるって話は、信じてなかったわけじゃないけれど、

隠飛羽の“あの総長達”が揃ってるなんて、何だか圧巻だな、なんて。





ここで私はある事に気が付く。

蛍君の隣、見覚えのある美女がいる事に。



栗色のふわ巻きカールにばっちりメイク。

その人は、合計11本もの缶ジュースと四苦八苦していた春瀬さんに見える。



「春瀬……さん?」



違ったらどうしよう。

他人の空似って事もあるかもしれないし……

そうは思ったけど、それは杞憂で終わった。


その人が春瀬さんだと分かった理由は、彼女が満面の笑みで微笑んだから。




「初伊!覚えててくれたんだ!あ、ねぇ、この間なんですぐ帰っちゃったの?ジュース渡そうと思ってたのに。」


「え?……あ、もう帰っていいのかと思って。お気遣いありがとうございます。」


「敬語!ダメって言ったじゃん!」




あ、そう言えば敬語禁止って言われたような気がする。

春瀬さんは、何だかすごくコミュ力が高い人だ。

ほぼ初対面に等しいのに、長年の友人みたいな気がする。

きっと、気を遣わないで話をさせてくれるからだろう。




「春瀬さん、凄いなぁ」なんて、自然と言葉が出た。

そうすると春瀬さんは、ちょっと不機嫌そうに口をとがらせる。




「春瀬さんなんて堅っ苦しいのやめてさ、灰音って呼んでよ。」


「灰音さん。」


「もー。“さん”も要らないよ。フツーに灰音って呼んでよ。」



ドキリとした。

何故って、女の子で呼び捨てで呼びあう子なんて、今までいなかったから。


まるで、普通の友達みたい……。



ドキドキと高鳴る鼓動をバレないように、小さく彼女に問いかける。




「はっ、灰音?」




ちょっと声が震えかけたが、灰音は向日葵みたいな笑顔でにかっと笑ってくれた。