お兄ちゃんは……ご立腹だった。

「何で来た」と言う彼の瞳は、ええ、すわってる。



「帰れ」なんて言うけれど、それなりの覚悟をもってここに来たんだ。

橘に……恵に会わずして帰れるはずがないよ。




けれども怒るお兄ちゃんを見ていると、もうちょっと考えて来ればよかったと後悔。

もうちょっとバレないやり方で来ればよかったね。




ともかくだ。

帰るもんかと腹を決めて、お兄ちゃんと顔を合わせていれば。


お兄ちゃんの後ろから、「烏丸!」と懐かしい声がして。

優しい声が聞こえて。

私は反射的に、彼の名前を呼んでいた。



立ちはだかるお兄ちゃんを押しのけて、橘に勢い良く飛びついた。

目を丸くした橘だったけど、手を大きく開いて受け止めてくれて。




「橘!」

「烏丸、元気?怪我してない?ご飯食べてる?風邪ひいてない?」

「……お母さん節止まらないね。」

「あったりまえでしょ!俺の大事な親友の体を心配して、何が悪い!」




抱擁を交わしながら、軽口をたたく。

ああ……嬉しいな。

“大切な親友”だってさ。



ぎゅうっと、抱きしめる手に力が入る。

そうすれば、橘も私の背中をトントンとさすってくれた。




「橘……会いたかった……。」

「うん、俺も。烏丸の元気そうな顔見てほっとした。」



お互いに、存在を確かめるように抱きしめ合うそれは、家族のハグに似ているなと思った。