『暫く忙しいらしい。』


お兄ちゃんから告げられたその言葉は、私の枷だ。





本能のままに会いに行きたいと願う“烏丸初伊”。

嫌われることを恐れる弱い“花京初伊”。





本当の私は弱いんだ。

誰かに愛されたい、必要とされたいと心の底から願っている癖に、どうしようもなく弱くって、何も出来なくって。




『お前は此処にいる間は、花京の名前は忘れていい。

お前はただの烏丸初伊だよ。

“ただの”と言うには特殊すぎる家系だけど、力を抜いて生きておいで。……私の可愛いもう一人の娘。』



真尋おじさまに勇気をもらって。



『今日から僕の妹だから、初伊ちゃんは僕が守るね!』

『初伊は私の大切な妹なのよ。』



お兄ちゃんとお姉ちゃんに背中を押してもらって。




『君が泣いたままだったら、誰も笑ってくれないよ?』



名も知らぬ“妖精さん”に、飛び立つ翼を貰った。




そうやって、弱い弱い花京初伊を閉じ込めて作り出した烏丸初伊は、よく笑った。よく泣いた。


烏丸初伊は宝物を抱えきれないほど抱えて、幸せの国を歩き回る。


花京初伊が出来なかった事を“彼女”は代わりにやってきて。


幸せだ。幸せなの。




だけれども、烏丸初伊の根底は花京初伊だから、

私の根底は怖がり。



ただただ、折角作った宝物を、なくすことが怖くって。

恵と橘に、疎まれる事が怖くって。

こんなに長い時間が経ってしまった。