「恵が来てくれて、嬉しい。」




思わず足を止めてしまった。

予想外の言葉。

顔が見たくて振り返ると、




「本当よ。」




君は微笑んでいた。



愛しい。

この言葉に名前を付けたら、きっと愛になるんだろうね。





尤も────俺のは“狂”が付くんだろうけど。






「もう初伊を俺以外の奴に触らせたくないなぁ。南の総長も、お兄さんもお姉さんも行成も。」




『またな、初伊。』


南の総長に掴まれた手は今俺の手の中にある。




「いっそ腕でも切り取ってしまおうか。あの男に触られた手なんて、なくてもいいね。」


「そんなの嫌よ。」


「一生面倒みてあげるよ?」





 

しばらくの沈黙を破ったのは、初伊の溜息。






「……恵は悪魔みたい。」



甘い声と言葉で人間を誘惑する悪魔。

流されたら最後、どこまでも堕ちて行っちゃうのよ、きっと。

そう初伊は言う。




じゃあ初伊はドラッグだと言った。



「ドラッグ……?そんな危ないイメージなの?私。」


「そう、危ないよ。一度ハマると、なかなか抜け出せない。それどころか貪欲に求めてしまう。頭の中は、初伊で一杯になる。」




みるみるうちに初伊の顔が赤くなる。



「……ばか。」




珍しく照れてる顔が見れたから、今日の所は勘弁してあげるよ。



そうして俺達はまた歩き出す。