「う、い、ちゃーん!!」




気がつけば、美琴に抱き着かれていた。




ふわりといい匂いが鼻をかすめる。

いわゆるシャボン玉の香りってやつだ。

爽やかでありつつ甘いその香りは美琴みたいだな、なんて。





「美琴、いー香りするー……。」

「ふふー。初伊ちゃんもシャンプーのいい匂いがするよー。僕この香りだーいすきっ。」





あらまあ、今日は随分と天使なのね、美琴さん。

ブラックの欠片もなく、純粋に甘えるように抱きつく彼だったから、思わず何の疑問も違和感も嫌悪感も、なーんにも抱かずにいた。






「……おい。」




でも、地を這うような低い声が掛けられて、はっと我に返る。


その声の主は夜白。


髪を編んでも流石は南校総長。


声だけで人を殺せるんじゃないかって位、威圧感たっぷりだ。







「初伊……その、“美琴”ってのは何だぁ?それで……なんでその悪魔が急に懐いてやがる。」


「美琴っていうのは東麻君の名前で、美琴は懐いてないかと思われます!」


「ち、げ、ぇ、よ……。こいつが東麻美琴だっていうのは重々承知だ。…………取り敢えず、話をするにしても、とっとと離れろ東麻。初伊、吉良見ろよ。ショックで固まってんぞ。」


「お兄ちゃーん?!」





夜白の言うとおり、お兄ちゃんは固まっていた。

折角の美形も、白目をむいたら台無しだ。

お兄ちゃんの方に駆け寄って、ほっぺを2、3回叩いたら目覚めたから、取り敢えず一安心。