「え、ちょ…………!」




僕の正体に気づいてないらしい初伊ちゃんは、戸惑いながら僕に腕を引かれて、そのまま勢いでエレベーターに乗った。

12と書かれたボタンを押せば、エレベーターが上昇していく。





「あの、助けてくれてありがとう。あなたは……?」


「うん、僕だよ。」





恐る恐る、という口調で聞く彼女の前で、ウィッグを取れば目を見開いた初伊ちゃん。


東麻君?と確かめるように聞くから、視線を合わせて頷いた。






「なんで、一人で……。」


僕の視線から逃げるように俯いた初伊ちゃん。

何かを呟いたけれど、チーンとエレベーターの到着を知らせるベルの音でそれは遮られる。



昼とは逆転。

初伊ちゃんの手を引いて、僕は最上階にある自分の部屋の扉を開けた。






「上がって?」



靴を一足先に脱いだ僕。

話は中でした方がいいと思って、まだ玄関先にいる初伊ちゃんに話しかける。


でも、初伊ちゃんは俯いたままだ。





「ねぇ、取り敢えず中で話そっ?」





そう言えば、初伊ちゃんは上がってくれると思ったんだけど……

ズルズルと、扉にもたれかかったまま、しゃがみこんでしまった。

更には「うぅぅ……」と呻き声まで聞こえる。





「何事?!」

さすがの異常事態に初伊ちゃんに近づき、僕もしゃがみこんで、彼女の顔をのぞき込む。



あ……そっか。

遊佐が怖かったから、泣いてるのかな。



当たり前だよね。

あんないかにもなヤンキーに殴られそうになったら、女の子なら涙も出るだろう。