立ち上がろうとして、気が付いた。



自分に掛けられていた毛布の存在とか、側にいてくれようとしたのか近くで寝てる初伊ちゃんとか。



スースーと寝息を立てている彼女を見ると、思わず頬が緩んだ。







ああ、この子は本当に──────。


ごめんね、と呟こうとしたけれど、お人好しのこの子はきっと“ありがとう”方が喜ぶから。


彼女を起こさないように、ありがとうと唇だけを動かす。






『東西南北の中央への干渉禁止って知ってる?』

『知らない。』




そう答えたけど、ホントは知ってたよ。

逆に知らない人なんて、陰飛羽にはいないよね。




─────もう、関わらないであげる。




それが初伊ちゃんの願いでしょ?

これが僕なりのお礼。

数年ぶりに、幸せな気持ちにしてくれたお礼だよ。




置き手紙を残して家を出た。




“もし次会えたら美琴って呼んで欲しい”と、

そう書いたのは気の迷い。


関わらないであげようと思うと同時に、会いたいと望んでいる僕の願望だ。





彼女の家を出た僕は、近場にあったレディースの洋服店に入った。


「いらっしゃいませ。」



そう営業スマイルを掲げるのは、陰飛羽では圧倒的少数派の“大人”の従業員。



「彼女さんへのプレゼントをお探しですか?」と聞く店員に、 変装用のウィッグと服が欲しいと答えれば、

「かしこまりました」と動じず帰ってくるのは、陰飛羽クオリティーだよね。